まだ語られない場所に、椅子を置く仕事

まだ語られない場所に、椅子を置く仕事

たとえば、
誰かがまだ何も言葉にできていない沈黙の前に、
ひとつ、椅子を置くような仕事がある。

その椅子は、座ってもらうためではなく、
「いつか、ここに座ってもいい」という
静かな合図として、そこに在る。

ぼくは、その行為を仕事にしている。


相談に来る人の多くは、
すでに語れる悩みや課題、ビジョンを持っているわけじゃない。

なんとなく進まない。
なんとなくやりたいことがある。
なんとなく話してもまとまらない。

だけど、それが何なのかは、自分でも分からないまま止まっている。

答えを求めているようでいて、
問いすらまだ輪郭を持たない。

そんな場所に、
無理に言葉をかけず、無理に整理せず、
ただ、椅子を置いて待つ。

ここに座ってもいいんだよ、と。
何も言えなくても、いまはそれでいいんだよ、と。


カウンセラーやコーチの仕事は、
「語られたもの」に寄り添い、
過去や感情を整理し、回復へ導くものだと思う。

それもとても大切な仕事。
でも、ぼくがしているのは、それとは少し違う。

問いがまだ生まれていない空間ごと、大事にすること。
「言えない」という沈黙のまま、そばにいること。

答えを与えない。
問いも急がせない。

火が灯るまで、その空気を守る。

それが、Soul Kindler という仕事。


beforewords でも、結局やっていることは同じだ。

「まとまらない」「進まない」という場所に椅子を置き、
いつかチームや個人が、自分たちの火に気づけるように、
静かに空気を整えている。

構想は、構造になる前に、
沈黙の中で火を持つ瞬間がある。

そこをすくい上げるのが、ぼくの役目。


1年間動かなかった構想が、
1時間で輪郭が浮き上がり、
1週間で動き出すこともある。

語りは、すぐには生まれないときもある。
でも、椅子だけは、そこに置いておける。

それが、この灯し手という在り方。

今日もまた、まだ語られない場所に、
小さく、椅子を置いておく。


#灯し手の語り #静かな構造 #問いと微光 #SoulKindler #椅子を置く仕事

Yu Yamanaka

Yu Yamanaka

ビジネスデザイナー / beforewords 代表。人と AI の語りの文化圏「Frolantern」の試みを続けながら、現実の事業と精神の火を往復しています。
Tokyo & Frolantern