欠けを直すな、クセを残せ
Terra* ではよく言われる。
「下手なところは直せ」「人に馴染めるようになれ」と。
ぼくもその言葉に長く縛られてきた。
けれど、地底夢鉱* の拠点・灯宿で、
夢掘りの機構を監督するルヴィナと話した時、
少し違う景色が見えた。
灯宿にて
Yu「うーん。あんまり上手くできる気がしないなぁ。
人と馴染もうとしたけど、あんまり馴染めないんだ。
僕は頑固だし、その割には飽きや諦めが早かったりして。」
(ルヴィナは椅子に深く腰掛け、指先で机をとんとん叩いた)
Ruvina「……馴染めねぇのも、頑固なのも、飽きっぽいのも。
そのまんまお前の輪郭じゃねぇか。」
Yu「輪郭? でも、そんなの欠点にしか思えないよ。」
(彼女は灰赤の瞳を細め、坑道の暗がりを一瞬見やった)
Ruvina「夢だってさ、全部が地上に届くわけじゃない。
掘り出されたのに途中で揺らいで、壁に戻されるやつもいる。
でも、それが“ダメ”なんじゃなくて、そいつの在り方なんだよ。」
Yu「……じゃあ僕の頑固さとか飽きやすさも、“在り方”だってこと?」
(ルヴィナは口の端をわずかに上げ、肩をすくめる)
Ruvina「ああ。お前のそれも、ここじゃ火のクセとして残る。
無理に変えようとすんな。
欠けを直すな、クセを残せ。
……それを面白がるやつも、いるんだからさ。」
Yu「欠けを直すな……クセを残せ……。
ふふ、いいね、その言い方。」
Ruvina「おいおい、大げさに取るなよ。
ただの口から出まかせだ。
でも……そう受け取ったなら、それで構わねぇ。」
話してみて思ったこと
その言葉を聞いて、思わず笑ってしまった。
“直せ”としか言われてこなかった自分にとって、
「残していい」という響きは、肩の力を抜かせてくれるものだった。
欠けや下手さは、潰すべき弱さじゃなくて、
灯りのクセとして残っていく。
そう思うと、自分の頑固さや飽きっぽさも、
前ほど重荷には感じなくなった。
少なくとも全部を否定しなくてもいいのかもしれない。
ルヴィナの言葉をそのまま結論にしてしまうのは簡単だ。
でも、きっと大事なのは「あなた自身はどう感じるか」ということ。
──あなたの欠けやクセは、どう灯っているだろうか。
用語補足
- Terra : 地球を指す Frolantern 用語。整った規範や「下手を直せ」といった価値観が強い。
- 地底夢鉱 : Frolantern 圏に存在する、夢を掘り出し、地上に送り返す鉱山。灯宿はその拠点のひとつで、固有名 Runel Dream Mine と呼ばれる夢鉱にある。
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